経験者の声

経験者の声

発注者

審査員

最優秀提案者

発注者

設計競技による魅力ある河川空間づくり木津川遊歩空間「トコトコダンダン」

川上 卓 (大阪モノレール株式会社 技術部長)
(コンペ時:大阪府西大阪治水事務所水都再生課 課長補佐)

大阪市内を流れる一級河川木津川の耐震化された垂直護岸に、遊歩空間を構築し、水辺の回遊性を高める事業に発注者として担当しました。

近年、公共施設の在り方が見直され、公共空間である河川敷も、まちの魅力向上に欠かせない空間として、利活用の需要が増えてきています。

河川敷地占用許可準則が2016年に改正され、いろいろと条件はありますが、民間事業者が占用することもできるようになった一方で、その場に求められる機能、景観等をしっかりとデザインしたオンリーワン空間とする取り組みは進んでいませんでした。

今回、本ガイドラインで紹介されているチャレンジ型に準ずる形で設計競技を実施したことで、空間全体の設計について、周辺環境との調和や歴史性、利活用の観点を踏まえながら、様々な視点から、スケール横断的にデザインすることができました。

アイデア公募の最優秀提案者には、別途建設コンサルタントに発注した詳細設計業務のデザイン監理に参加いただきました。地域とのワークショップ等にも参加いただくなどし、現場の課題を解決する提案をいただいた結果、近隣住民の関心も高まり、市内の河川沿いの歩行空間では生まれにくい、地域住民による利活用に繋がっています。

また、発注側担当者のモチベーションも上がり、非常にやりがいのある仕事になりました。

なぜ文化課が土木インフラに?木津川遊歩空間「トコトコダンダン」

寺浦 薫 (甲南女子大学 メディア表現学科 准教授)
(コンペ時:大阪府 府民文化部 文化・スポーツ室 文化課 主任研究員)

私は前職、大阪府の文化課所属の際にトコトコダンダンを担当しました。土木事業になぜ文化課が関わるのか?疑問に思われる方も多いと思います。私自身もまったく初めての土木インフラ整備事業で、専門用語や整備手順など分からないことだらけでした。しかし、文化課が所管する府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)とともに実施していた「プラットフォーム形成支援事業」によって、文化課と河川室+西大阪治水事務所の部局間連携を実施、さらにはenocoのクリエイターも加わっての官民協働の推進体制ができたことにより、資格要件を問わないデザインコンペなど当時先進的な制度設計を進めることができました。またenocoのノウハウを活用した住民ワークショップを企画・運営することで、当初は難航した合意形成も着地させることができるなど、従来の土木整備の手法だけでは難しかった課題を解決することができました。文化課としては、若き建築家・土木デザイナーを世に送り出し、enocoも含めクリエイターが活躍する都市の実現という目標のひとつをクリアすることにもなりました。苦労も多かったですが、いい仲間に恵まれ、本当にやりがいのある事業でした。

インフラ整備やまちづくりにクリエイターのアイデアや技術を活かすことによってこそ、魅力的な都市が実現される。そのことを実感した事業でした。これからもそのような事業が増え、市民に愛される土木インフラが増え続けることを願ってやみません。

神戸市初の土木設計競技(コンペ)を経験して税関前歩道橋

春元 崇志 (都市局まち再生推進課 係長)
(コンペ時:企画調整局地域ビジョン部未来都市推進課)

神戸市は近年、阪神・淡路大震災後の復興に係る市債償還の目途が立ったことなどから、都心三宮再整備やウォーターフロント再開発を急ピッチで進めています。

その中で、長年の懸案であった、街と港を隔てる国道2号や高架道路による“分断感”の緩和を目指し、平成30年度に既存の税関前歩道橋を架け替え、「渡りたくなる歩道橋」を構築することをテーマにコンペを実施しました。(図1・写真1)

公募条件の設定から最終審査まで1年もないタイトなスケジュール、また本市初の土木設計コンペであったため、作業や手続きは困難を極めましたが、当時まさに作成されようとしていた土木学会によるガイドラインが、拠り所となり進めることができました。

各者から出された提案は、構想の着眼点や構造形式などバラエティに富み、それを基に改めて庁内で橋梁技術に係る議論ができたことなど、職員のスキルアップ・技術力の継承という面で大いに意義がありました。令和2年度には三宮駅前の歩行者デッキ設計にもコンペが実施されるなど、本市における土木設計コンペはさらなる展開も期待されます。(図2~4)

最後に、本コンペの発注者として貴重な機会に恵まれたことを光栄に思いますし、コンペを通じてお世話になりました関係者の皆様のご協力に感謝しております。本市の経験が、今後土木設計コンペの実施を検討される方々の参考になれば幸いです。

図1 税関前歩道橋と周辺位置図

写真1 現在の税関前歩道橋を北側から望む

図2 設計競技(コンペ)最優秀作品

図3 設計競技(コンペ)次点作品



図4 設計競技(コンペ)入選作品

沼津南一色線のデザインコンペを終えて沼津南一色線

宮地 重幸 (沼津市 建設部 道路建設課 街路整備係 係長)

沼津市では、市の南北都市軸を構成する都市計画道路沼津南一色線を整備していますが、整備区域内で発見された高尾山古墳が、古墳時代初期のものとしては東日本で最古級かつ最大級の古墳であることが判明し、その高尾山古墳と都市計画道路の両立を図るという困難な課題をクリアすることが求められました。そのため、古墳を毀損しないような道路線形や構造などにおいて協議や検討を重ね、平面4車線の道路計画から「東側2車線を橋梁形式、西側2車線をトンネル形式」とする整備方針を公表しました。

今回の整備については、沼津市にとってシンボル性の高い施設となる要素を兼ね揃えていることや、市民の関心を集めている事業であり説明責任が求められることに加え、古墳の保存・利活用及び難易度が高い道路構造物(橋梁・トンネル)の整備という観点から、設計対象施設の具体的なデザインを求めることができる「設計競技方式(コンペ)」を採用することにしました。

本市においても、経験のないデザインコンペを実施することとなったため、学識経験者やアドバイザー及び地域住民などと協議・調整を行い、募集要項を作成しました。募集要項により求めた内容は、道路と古墳を含む周辺までを一体的な空間として整備計画しているため、要求事項は多岐に渡っており、複雑で伝わりにくい部分もあったかと思いましたが、提案していただいた内容は、どれも目を見張るものばかりでありました。

コンペを終えての発注者としての感想は、初めて経験するコンペの実施にあたり、想像していた以上に多くの労力が掛かりましたが、具体的なデザイン案を求めたことにより、地域住民や関係者が完成形のイメージを持つことができました。また、デザインを決定した過程を市民に公開したことにより、事業に対する認識を共有することができたと思います。また、実施する前では想像もしていなかった提案があり、改めてコンペを実施して良かったと思っています。

審査員

アイディアが活かされる社会のしくみづくり木津川遊歩空間「トコトコダンダン」

忽那 裕樹 (E-DESIGN)

都市再生や創生を進めるには、多様な市民が主体的に関わることが必要不可欠となります。実現のためには、共感できる公共施策と透明性の高いプロセス、公共のプロジェクトに初期から参画できるプログラムが求められます。

デザインコンペは、市民WS等をもとに設計の与条件、審査基準をフェアに設定し、予算や施工等についても事前に吟味していくため、市民と共有できる機会も数多く設定することができ、市民の関心惹起と主体形成につながります。

トコトコダンダンのプロジェクトでは、提案内容のみを審査対象とし、行政との契約を伴う経験等も問わないデザインコンペを実現しました。私は、大阪府江之子島文化芸術創造センターのディレクターとして、コンペ自体の企画、展開、審査員、技術アドバイス、近隣住民との対話など、すべてのプロセスに関わり、大阪府の河川部局と文化部局との庁内連携にも協力させていただきました。このプロセスの中で、竣工後の住民管理も含めた人たちとの関係が生み出され、様々な主体的な活動が展開されていること、また、若い才能を発掘することにもつながったことに可能性を感じています。

一見、手間がかかるように思えるデザインコンペですが、市民の主体的な参画のもと、住む人、訪れる人に、交流の場を提供し、地域のブランディングにもつなげてくためには、このプロセスが、早道であると考えます。

このような共感される公共空間づくりのプロセス、これが、新たなアイディアを社会で実現できるしくみとして定着し、地域に愛着と誇りを持つまちづくりにつながることを願っています。

通常では得られない多様な設計案税関前歩道橋

高橋 良和 (京都大学)

建築に比べ、土木分野では技術的な対話である「設計協議」をすることはあっても、デザインを競い合う「設計競技」として取り組まれている事例は多くない。というのも、橋梁など公共構造物の計画や設計は、従来、官庁のインハウスエンジニアが担当しており、近年はプロポーザル方式で選ばれた設計者との共同作業により行われることが増えてきたが、設計行為の成果でもある設計案を戦わせる設計競技は、従来の公共事業のやり方を大きく変える必要があり、その採用に抵抗感があるのかもしれない。そのため、その成功事例を積み上げることは重要である。

私が参画した神戸市税関前歩道橋のコンペでは、全体の統一デザインコンセプトの中で、同一の設計者・組織による比較設計では得ることができない多様な設計案が得られたことは、まさに設計競技のメリットを示すものであった。従来の構造計画では構造物の詳細が決まるまでに比較されるため、どうしても技術的観点による評価が中心になりがちであるが、設計競技ではデザインまでを含めた具体案の比較となるため、市民が理解しやすく、その参画意識を高めやすいと実感した。一方、審査においては、自身が得意とする技術以外の幅広い視点が不可欠であり、またプロポーザル方式よりも提案者の負担が大きな設計競技であるが故に、作品の選定に当たっては、市民、デザイナー、技術者それぞれに合点がいく説明が必要となり、審査側が審査されるような緊張感があった。私にとっても大きなチャレンジであったが、結果、共に設計に参画しているという感覚を覚えた。選ばれた作品が実現することを心待ちにしている。

市民の注目を集めたコンペ沼津南一色線

福井 恒明 (法政大学)

都市計画道路沼津南一色線設計競技は、都市計画道路予定地上に存在する高尾山古墳が古墳時代初期において東日本最古級かつ最大級の前方後方墳として非常に価値が高いことが判明したことから、古墳の保存と道路整備を両立し、隣接する神社や住宅地の環境にも目配りした計画の提案を求めたものです。道路事業が進み用地取得や古墳上にあった神社移転などが進んでから古墳の価値が明らかとなったため、道路計画の大幅な修正が困難で厳しい条件でのコンペとなりました。

コンペ要項の作成にあたっては、必要な性能を満たしながら工夫の余地を残せるよう、市の担当者である宮地氏と何度も意見交換を重ねました。応募作品はいずれもレベルが高いもので、その中でもよい案を選ぶことができたと考えています。

その一方でいくつかの反省点もあります。

計画道路は古墳を避けつつ前後区間の交差道路と接続する必要があり、その結果として道路の勾配や幅員条件が極めて厳しくなりました。計画が条件を満たして敷地内ですべて成立していることが審査の前提となりますが、そのチェックは詳細な計算が必要なレベルであり、審査会でその確認を行うことは現実的ではなくこの点は課題が残りました。

さらに古墳の保存に関する条件が審査会の場で追加的に示される場面がありました。古墳の範囲を毀損しないことを設計条件としていましたが、古墳の周溝の外側が削られた提案に対し、溝としての断面が確保されていないため古墳が毀損されていることが指摘されました。この点は事前に明示されておらず、何が古墳の毀損にあたるのかをより丁寧に確認しておく必要がありました。

本件ほど厳しい制約条件のもとでは、案を選ぶコンペではなく、設計者を決めるプロポーザルの方がよかったのではないかとの声も聞かれます。その意見にも一理ありますが、「案は見せるけれども確定ではなく、設計者を選ぶ」というプロポーザルは市民にはわかりにくいと思います。コンペは「どの計画を選ぶのか」がはっきりとしています。今回は道路の早期開通を望む方々や古墳の保存を求める方々など多くの視点をもった皆さんが注目していました。公開審査の会場に多くの市民が集まり、案についての議論も盛り上がったようです。この点ではコンペ方式を選んだ意義は大いにあったと思います。

初めての審査員を終えて東横堀川デザインコンペ

廣井 真由美 (東横堀川水辺再生協議会(e-よこ会))

私たちが普段活動している東横堀川が、デザインコンペの対象地に選定され、活動団体としてこのコンペに関わらせていただけるということが、素直に嬉しかったです。5~6件程度かと思っていましたが、蓋を開けると36件の応募!そんなにたくさんの提案をいただくとは想像もしていなかったので、関心の高さにとても驚きました。

審査の時に心掛けたのは、地域活動でつながっているまちの人たちが、いきいきと浮かんでくるような内容かどうかです。36件×A4、16ページはかなりの量で、すべての提案にコメントするのは大変だったものの、この地域が他者からどう映り、どんなことが課題として捉えられるのか、中にいると知っているようで知らない部分に向き合うことができました。

コンペ後には、優勝チームのプレゼンの録画を視聴する勉強会を行いました。コロナ禍で地域イベントがほぼ開催できない中、今回のデザインコンペのたくさんの素敵な提案に、一番元気をいただいたのはまちづくり活動の仲間たちだったかもしれません。

今回のコンペを通じて、専門の方々との交流を持てたことも大きな収穫です。知らないことを知る喜びと共に、貴重な出会いも今後のまちづくり活動にいかしていきたいと思います。

最優秀提案者

土木のデザインを当たり前に木津川遊歩空間「トコトコダンダン」

岩瀬 諒子 (京都大学大学院工学研究科 建築学専攻 助教・岩瀬諒子設計事務所)
(コンペ時:慶應義塾大学理工学部 助手)

2017年にトコトコダンダンが竣工してから、地域での認知度がすこしずつ高まる中で、犬の散歩をきっかけとするコミュニティができたり、地域の出初式が恒例行事になったりと、日常の中に地域の居場所と呼べるようなのどかな風景が出現しつつあります。

一方、設計者である私は、この作品をきっかけに独立し、コンペ以降国内外においてメディアの露出も増え、事務所としても応募した公募型プロポーザルにて採択されるなど継続的に公園、道路、広場などの土木デザインに関わることが出来ていますが、その中でようやく見えてきたことがあります。

竣工当初、土木学会デザイン賞の審査員も務められた千葉工大の八馬智さんがトコトコダンダンのことを「まるでモーターショーにおけるコンセプトカーがそのまま実現したかのような鮮明さをもっている。」と評していただいたのですが、そのことの本当の意味や、いかに当時の自分の設計環境が恵まれていたのかを今になって実感しています。

暮らしの基盤となる安心安全が最優先の土木分野の設計においては、地域再編の契機となる新たな価値を創造していくようなデザインはなかなか理解されづらく、いくら一般性や共感性の高い構想を提示しても、無数の「土木事業の当たり前」に阻まれ、設計当初の価値や意味が住民に届く前に、いつのまにか実現が叶わなくなってしまいます。

「行政内での横断的な連帯」「合意形成プロセスやマネージメント」「デザインの価値を評価し共有すること」「設計者によるデザイン監理」の大事さがよくわかる今、「トコトコは奇跡」と言われない、すなわち地域にねざした先駆的なデザインが実現できることが当たり前になる日が来ることを切に願っています。

税関前歩道橋設計競技に参加して税関前歩道橋

椛木 洋子 (株式会社エイト日本技術開発)

エイト日本技術開発、eau、二井さん、このチームで参加した何度目かのコンペでしたが、横断歩道橋は私自身設計実績が少ないこともあり、初めての経験でした。神戸市の三ノ宮駅から港まで、人が物理的にも心理的にも抵抗なく行けることは当然ですが、阪神大震災の復興記念の中心地であるこの地区を象徴する橋とは、どのような形がふさわしいのでしょう。

チーム内では、まず地区の現況と歴史を学び、重視すべきものについて、とことん議論しました。次にそれらを橋の形に落とし込むために、歩行者動線と幾何構造の基本的な確認を行いました。それらと並行して構造と施工方法をセットで検討し、複雑に分岐する桁形状に合わせて、全体のフォルムを整えるとともに、階段を兼用した橋台を設けました。もちろんこれらは、順序だてて決められるものではありません。チーム内で各担当の検討結果をキャッチボールしながら、時には振り出しに戻るような議論を重ねて、形を整えていきました。

一定の時間制約の中で提案をまとめるためには、大変な労力が必要です。同時に、様々な制約の中で最大のパフォーマンスを具現化していくことは、設計者にとって最も創造的で楽しい行為です。二次選考会プレゼン終了後に、仲間で飲んだビールは、最高の味わいでした。

地域の熱気を感じながら沼津南一色線

安仁屋 宗太 (株式会社イー・エー・ユー)

2020年2月のよく晴れた冬の日。公開プレゼンテーションの会場である沼津駅前のホールは、その名にふさわしく大勢集まった市民のみなさんや市長や関係者の熱気につつまれました。

この沼津南一色線は、かなりタフなコンペでした。

まず、対象は道路・橋梁・トンネル・古墳・広場など多岐にわたり、それらの複合的な提案がもとめられました。これまで数々のコンペを共に渡り歩いてきたエイト日本技術開発の橋梁チームと国士館大・二井さんに加え、トンネルはエイト日技の関西支社、地元の同社静岡事務所、古墳は文化財保存計画協会という特設チームを組みました。

さらに、提案の条件はかつてないほど厳しいものでした。価値の高い古墳を傷つけることなく、上下を縫うようにトンネルと橋梁を通さなければならない。古墳か、道路か。その両立に向けて深い議論を繰り返しようやく私たちチームがたどり着いたのは、その二択の先にある、地域の暮らしを大事にしたいという提案でした。

各社の説明や質疑応答にじっくりと耳を傾け、パネルや模型を熱心にのぞき込む市民のみなさんを前に背筋が伸びる思いでしたが、提案に込めた想いをなんとか伝えようとこちらも熱が入りました。このように地域に開かれ、地域にとって必要なものをともに作り上げるプロジェクトはとても価値あるものですし、その充実したプロセスに関われることは設計者として喜ばしい限りです。


市民とのコミュニケーションの媒体として東横堀川デザインコンペ

山本 琢人 (中央復建コンサルタンツ株式会社 計画系部門事業創生G)

東横堀川デザインコンペは、既成市街地を対象として、地域スケールから施設スケールまでを一貫して提案する、あまり見ないコンペだったと思います。地域の人にどんな暮らしを提案したいのかを今一度考える貴重な機会でした。

オンラインで開催できたのはよかったです。特に審査会は、会場で実施するより、むしろ一体感を感じました。完全オンラインだったので、資料もそれ専用のフォーマットです。そのおかげで、一般公開の参加者にもプレゼン・講評の内容が伝わりやすかったのではないかと思います。

デザインコンペに取り組んでみて、地域スケールのコンペは、対象エリアの広さや提案内容のイメージのしやすさなどの面から、市民の関心を集めやすいのではないかと思いました。実際、コンペの後に我々の提案をベースに地元団体等と意見交換する機会をいただき、その場の参加者から大きく関心を持っていただけました。

業務に直結しなくても、デザインコンペを実施することで、その地域をどうしていきたいのか、どういった暮らしをしたいのか、といった議論のきっかけを提供できます。デザインコンペは、市民と技術者とのコミュニケーションを促す、大切な役割を果たせるのではないかと感じました。

地域価値を高める、とっておきの方法太田川大橋

二井 昭佳 (国士舘大学)
(太田川大橋設計チーム(エイト日本技術開発・イーエーユー・空間工学研究所)の一員として)

「コンペは大変だけど、それに見合うだけの価値がある」。広島市の街路課長として太田川大橋のコンペを担当された後藤賢司さんの言葉です。

たしかにコンペは、主催者、応募者双方にとって、なかなかハードな作業です。私たち応募者でいえば、短い期間に、地域の魅力や課題を読み取り、地域に提供したい価値を構想し、模型やスケッチをもとに橋梁計画をたて、構造計算とにらめっこしながら、形をブラッシュアップさせていきます。デザインだけでは選ばれませんから、構造実現性、施工方法の妥当性、工期や予算条件、そして地域への波及効果を満たすトータルデザインを目指します。

太田川大橋でも、椛木さんはじめとするエイト日本技術開発さん、イーエーユーさん、空間工学研究所さんという信頼する仲間と楽しくも刺激的な議論を繰り返し、案をまとめていきました。ちなみに、このチームは、神戸市の税関前歩道橋コンペ、沼津市の沼津南一色線コンペなどへと続いています。

一方、コンペ主催者もまた、計画条件や上限工事費の設定、検討資料の準備、関係各課との協議など、コンペを仕立てるためにかなりの作業に取り組んでいます。そこにあるのは、多くの優れた提案を受け、地域をより良くしたいという熱意でしょう。

コンペの主催者も応募者も、その場所にふさわしい空間や構造物のために知恵を振り絞って取り組む。だからこそ、冒頭の「価値」が生まれるのでしょう。地域再生が大きな課題となっている今、コンペは地域の大切な場所の価値を高めたい時のとっておきの方法だと思います。